2013年12月25日水曜日

心房中隔穿刺 手技の実際 ビデオです。

心房細動アブレーションに伴う合併症の一つである心タンポナーデ(心臓に小さい穴が開き、血液が心臓外に漏れ出す)の多くは、心房中隔穿刺を起因としています。

そのために、私は心腔内エコーを用いて、しっかりと心房中隔を確認しながら、穿刺する方法が安全だと考えています。しかし、この方法が安全だと学会や研究会等で発表しても、他の医師から、心腔内エコーで心房中隔を描出する方法が難しいと、頻繁に言われます。

当院では、全国に先駆けて本法を導入し、色々な工夫を凝らして、今ではこの方法は完全に確立した方法となっています。心房中隔の描出方法等の当院での工夫を紹介する為に、ある企業が紹介ビデオを作成してくれました。

患者さんには、実際の手技の様子をご覧いただき、医師には本法を日常手技の参考にしていただければ嬉しく思います。
上記をクリックするとYou tubeにリンクされた動画を見ることができます。

2013年12月23日月曜日

持続性心房細動の治療 薬物治療かカテーテルアブレーションか?

前々回の続きの話です。持続性心房細動を薬物で治療する際には、心拍数調節治療もリズムコントロール治療も、死亡率という観点からは、ほぼ同等の効果と申し上げました。それでは、薬物治療とカテーテルアブレーション治療を比較するとどうなのか。

最近になってやっと、持続性心房細動に対する、薬物治療とカテーテルアブレーション治療の、2つの無作為比較試験の結果が発表になりました。

一つの試験では、52人の患者さんをカテーテルアブレーション治療群と薬物治療群(心拍数調節治療)に均等に分けて、1年後に臨床効果を評価しました。カテーテルアブレーション治療を受けた患者さんは88%(複数回のアブレーション治療実施)で洞調律が維持され、また、カテーテルアブレーション治療群が、薬物治療群よりも、全身身体能力(最大酸素消費量)や生活の質の点で良好な値を示し、より低いBNP(心臓から分泌されるホルモン)値を示しました。もう一つは、患者さんをカテーテルアブレーション治療群と薬物治療群(リズムコントロール治療)に分けて、単純に12ヶ月後の洞調律維持率を比較したものですが、カテーテルアブレーション治療群では60.2%、薬物治療群では29.2%の患者さんが洞調律を維持していました。

2つの研究ともに、持続性心房細動に対して、薬物治療を実施するよりも、カテーテルアブレーション治療を実施したほうが、洞調律維持率は勿論のことと、それにより良好な臨床効果ももたらされることが明らかとなりました。
カテーテルアブレーション治療群の方が、薬物治療群よりも1年後の洞調律維持率が高くなっています。文献 (2)より


参考文献 
(1)Jones DG, et al. JACC 2013;61:1894
(2) Mont L, et al. SARA study. European Heart Journal, in  press

途中経過報告 非侵襲的人口呼吸器を使用し始めて4か月

心房細動アブレーションを施行する際に、以前お話した非侵襲的人工呼吸器を使用しはじめて4ヶ月が経ちました。現在までの同方法に対する患者さんの評価をお知らせ致します。

本方法を施行したほとんど、というか全員が、「術中の事はまったく記憶にない。気がついたら帰室していました。痛みは全然自覚しなかった。楽でした。」と言われています。

極めて良好な反応です。術者にとっても、痛みによる体動や、呼吸による心臓の動きが減り、術時間は2時間半が2時間20分と僅か10分間程度短くなっただけですが、術者にかかるストレスは、10分の1にまで軽減しているといっても過言ではありません。必ずや成功率向上にも寄与すると思います。

アブレーションを施行する際に、この方法を用いた群と用いない群の2群に無作為に分けて、本方法の利点を明らかにし、論文にしなければ、この方法は世界に広がっていかないのです。しかし、今となっては、本方法を用いない昔の方法に戻れない。何とかして、有効性を証明できる方法を模索中です。
当院で用いている方法とは少し違いますが、人工呼吸器を装着し、全身麻酔を実施し、手術を行ったGeneral Anesthesia群と、人工呼吸器を使用しない鎮静のみのConscious Sedation群では術後のアブレーション成功率は、人工呼吸器を使用した群の方が良好な成績です。参考文献(1)より。

参考文献 (1)DIBiase L, et al. Heart Rhythm.2011;8:368–372.

2013年12月22日日曜日

持続性心房細動の薬物療法 心拍数調節治療とリズム調節治療

本日はアブレーションの話ではありあません。心房細動、もっぱら持続性心房細動の薬物治療についてご説明します。以前は、持続性心房細動になってしまったならば、電気ショックや抗不整脈薬を使って、何とか元の正常の脈拍に戻すことが最良と信じられていました。

そこで、2000年前後に、本当に正常の脈拍に戻す治療が、患者さんにとって有益、つまりは死亡率を下げることにつながるのかどうかという研究が行われたのです。循環器医師の間ではとても有名な「AFFIRM(アファーム)試験」です。合計で4060人の患者さんを、心房細動のまま、安静時の心拍数を80拍/分以下に維持する「心拍数調節治療群」2027人と、抗不整脈薬や電気ショックで正常の脈拍に戻そうとする「リズムコントロール治療群」2033人に分けて5年間経過観察しました。経過中、心拍数調節治療群で310人の方が、リズムコントロール治療群で356人の方が亡くなり、死亡率には両群間で統計学的な差はなかったのです。それどころか、どちらかというと、一生懸命、正常の脈拍に戻そうとしたリズムコントロール群の方で死亡率が高い傾向にありました(1)。以前、信じられていたこととは逆の結果だったのです。

それからというもの、正しい結果が、以前信じられていたものと逆だったという反動も手伝い、持続性心房細動は、無理して正常の脈拍にもどさずに、心拍数調節治療で構わないのだという考えが急速に広がったのです。しかし、患者さんがいくら動悸症状を医師に訴えても、「心拍数調節治療をおこなっていれば、心房細動のままでも死亡率は悪くならないから、大丈夫です。」と言われ、心房細動のまま放置されることが日常臨床で頻繁に起こり、患者さんの生活の質(QOL)がないがしろにされることが起こり始めたのです。

この研究は、持続性心房細動の治療において、薬と薬の競争であって。薬とアブレーション治療の競争ではないのです。この結果をもってして、持続性心房細動は心拍数調節治療を行っていれば、放おっていおいても大丈夫ということにはならないのです。この続きは後日お話します。
Rhythm control(リズムコントロール治療群)とRate control (心拍数調節治療群)とでは5年間の経過観察で死亡率に統計学的な差はありません。参考文献 (1)より。

参考文献 (1) Wyse DG, et al. N Engl J Med. 2002;347:1825–1833. 

2013年12月21日土曜日

ワルファリンとダビガトラン

心房細動の脳梗塞予防のために、ワルファリンに代わる新規抗凝固薬という薬があります。以前、お話したダビガトランという薬がそうです。ワルファリンと違い、「納豆をたべてはダメ」などという食事制限が不要なので、内服管理が簡単です。最近では、ダビガトランに加え、イグザレルト、エリキュースと次々に新薬が発売されています。

ワルファリンを中止するよりも、ワルファリンを内服しながらアブレーションを実施した方が、手術による脳梗塞の合併が少なくなります(1)。術中にワルファリンによる抗凝固状態(血液サラサラ状態)を維持したままアブレーションを実施する方が、脳梗塞の予防効果があるというこです。また、術中にもし出血性の合併症が発症しても、PPSBというワルファリンの効果を中和する薬を投与することで、抗凝固状態は急速に消失し、止血は容易です。しかし、ダビガトランには、中和薬がないのです。術中に大出血を来たしたならば、止血が非常に困難になります。少しでも術中でのダビガトランの効果を減らすために、アブレーション当日の朝は、内服を中止しています。しかし、その分、抗凝固作用も薄れることになり、脳梗塞予防という観点からは不利になるということです。

最近、ワルファリンとダビガトランの、心房細動アブレーション脳梗塞合併率を比較した10の研究のメタ解析が発表されました。それによると、ワルファリン内服患者2356人中4人(0.2%)、ダビガトラン内服患者1501人中10人(0.7%)に術関連の血栓塞栓症が発症し、ダビガトランの方が発症率が高くなっています(下図)(2)。

当院に、紹介されてくる患者さんの中にも、上記新規抗凝固薬を投与されている患者さんがいらっしゃいます。面倒でも、当院ではアブレーションを実施する前に、新規抗凝固薬からワルファリンに変更し、ワルファリンを内服したままアブレーションを施行しております。ワルファリンを内服したままアブレーション実施したほうが安全だと思からです。
ワルファリンの方がダビガトランに比べ、術関連の血栓塞栓症の発症は少ないという結果です。参考文献 (2)より。
参考文献 

心房細動アブレーションの食道合併症

カテーテルアブレーションを実施すると良いことばかりが起こる訳ではありません。体の中に異物を挿入して、心筋を焼灼するので、患者さんにとって不都合なことも起こりうるのです。それが合併症です。

心房細動アブレーションする際に避けて通れない合併症の一つに食道障害があります。多くの患者さんで、食道は心臓の真後ろを通っているために、肺静脈隔離術を施行する際に、どうしても食道上の心房筋を数箇所焼灼せざるを得ないのです。高周波で発生した熱は、心臓だけにとどまってくれる訳ではありません。周りの臓器の食道にも伝わります。その際に食道は、食道粘膜上での測定で40℃以上の高熱に一過性にさらされるので、食道に火傷ができてしまうのです。

下図が当院でアブレーション実施た患者さんに発生した、食道内視鏡で確認された食道障害の様子です。10~20%の程度で軽度の食道炎が発症してしまいます。

食道障害を起こさないようにするために、食道温度をモニターしながらアブレーションを実施し、食道温度が上昇したならば、高周波の通電を止めています。また食道の近くでアブレーションを実施する際には、高周波の出力も下げています。そうすることで、食道障害の発生を低くすることができますが、どのように工夫しても10~20%程度は軽度の食道炎が発症してしまうのです(1)。アブレーション術後は、食道炎治療薬としてプロトンポンプインヒビターを内服して頂き、1ヶ月程度は、食道粘膜を刺激するようなアルコールや熱いものの飲食を控えて頂いています。軽度の食道炎は、数週間後には治癒しています。下図の患者さんすべてで、2~3週間後に実施した内視鏡検査で食道炎は消えていました。


軽度の食道炎の状態です
参考文献 (1) Kuwahara, T et al. Europace, in press

2013年12月19日木曜日

心筋を焼灼するということは・・。動画です。

カテーテルアブレーションとは、不整脈の発生起源もしくは原因回路の一部を焼灼し、不整脈を停止させる治療です。では実際にはどの様に焼灼しているのか。

カテーテル先端を標的心筋に接触させ、背中に当てた大きな対極板に向けて、高周波の電気を流します。そうすると、心筋に接しているカテーテル先端の面積は小さいので、電流密度の高い電気が心筋に流れる。その際に、カテーテルに接触している心筋が高温になり火傷するのです。

下図はその様子を動画で示したものです。通電開始とともに、カテーテル先端周囲の心筋が徐々に白くなっていくのが分かると思います。熱により、心筋がタンパク変性していくようです。焼灼時の心筋の温度は80℃以上になります。

焼灼の範囲が大きいように思われるかもしれませんが、実際のアブレーション時は、カテーテル先端がこの動画のように、心筋内にのめり込んでいるわけではなく、心筋表面に接しているだけで、また心筋は絶えず動いており、カテーテル先端は少しずつずれるので、最大で直径が5~8mm、深さが5~8mmの焼灼痕を作る程度です。


2013年12月18日水曜日

過ぎたるは及ばざるが如し 激しい運動は心房細動発症のリスクになります

心房細動の原因は大雑把にいうと、3つあり、加齢、心疾患、飲酒です。心疾患の中には、高血圧、弁膜症、心筋梗塞、心不全などがあります。飲酒が心房細動を引き起こすことは前にも書きました。では生活習慣の一つとして、運動は心房細動の原因になるのか。よく聞かれる質問です。

適度な運動は、心房細動発症の原因になるようなことはありません。しかしながら、激しい運動は心房細動の原因になりえます。1万6千人の健康成人を調べ、各人の運動量を1週間に0回、1回、1~2回、3~4回、5~7回に分けて、その後の心房細動発症との関係を調べた研究があります。それによると、50歳以下の人に限定すれば、週に5~7回運動する人は、週に0回の人に比べ、1.7倍の多さで心房細動を発症したのです(1)。

またアスリートと非アスリートの心房細動発症率を比較した6試験のメタ解析によると、アスリートは非アスリートに比べて、5.29倍(オッズ比)心房細動になりやすいと報告されました(2)。

健康になろうとして、過度な運動をなされる方がいらっしゃいますが、「過ぎたるは及ばざるが如し」、ほどほどがよろしいかと思われます。
6つの試験すべてで、アスリートが非アスリートに比べ、心房細動を発症する危険性が高いことが分かります。参考文献 2より。


参考文献 (1) Aizer A, et al. Am J Cardiol 2009;103:1572
参考文献 (2) Abdulla J, et al. Europace 2009;11:1156

2013年12月17日火曜日

心房細動の誘発方法

心房細動カテーテルアブレーションとは、心房細動の起源を探して、そこにカテーテルの先端を接触させ、高周波の電気を流し、局所的な火傷を作って、心房細動を起こさせないようにする方法です。そのためには、アブレーション中に心房細動が起きなければなりません。日頃から頻繁に出ているわけではない心房細動をどのようにして起こさせるのか?

イソプロテレノールというお薬を使うのです。ただし通常量ではダメで、高用量必要です。この薬を使用すると、心房の活動性が増し、約9割の患者さんで、術中に心房細動が誘発されます。

当院では、以前までは1例1例、しっかりと術前にイソプロテレノール負荷を実施し、心房細動の起源をしっかりと突き止めてからアブレーションを実施していました(1)。その時に突き止めた、70例の患者さんの心房細動起源が下図です。

ご覧になればお分かりのように、以前書きましたが、フランスのハイサゲール先生の言ったとおり、心房細動起源の85~90%は肺静脈由来であることが判明しました。また、この研究で、7~8%の患者さんでは上大静脈から心房細動が発症していていることも判明しました。そこで最近は、心房細動起源の巣窟である肺静脈と上大静脈を取り囲むように焼灼することで、電気的に隔離し、その後、イソプロテレノール負荷を実施して、それ以外つまり非肺静脈、非上大静脈由来の心房細動起源を探して、各個撃破で焼灼治療しているのです。
イソプロテレノール負荷で判明した、心房細動起源です。多くの心房細動起源が肺静脈(LSPV、LIPV、RSPV、RIPV)や上大静脈(SVC)に由来していることが分かります。
参考文献 (1) 桑原大志 高用量イソプロテレノール投与法 心房細動カテーテルアブレーション メディカルビュー社 


2013年12月16日月曜日

心房細動起源

私が学生、もしくは医者になりたての頃は、心房細動は不治の病と教わりました。薬では完全に治らないので、だまし、だまし治療するしかない。上司からは「心房細動はその内慢性化するので、そうすると自覚症状も自然に和らいでくるので心配ない」と言われ、それで本当に良いのか?と騙されたような複雑な気持ちでした。

その心房細動が根治可能なことを発見したのは、フランスのハイサゲール先生という人です。彼は1998年に偉大な研究を行いました。心房細動が起こる瞬間の、心臓の中の電気興奮を観察し、心房細動の起源を突き止めたのです。発作性心房細動の9割は、肺静脈から発症すると発表したのです。

彼は同時に個別肺静脈隔離術という方法も発表しました。それを当院の高橋が、左右それぞれ2本づつある肺静脈を、個別ではなく同時に一括隔離するように修正変更し、それが今や世界の標準的方法になっているのです。

下の図は、当院で記録された、右上肺静脈起源の心房細動です。心房細動起源は興奮間隔が0.076秒という非常に短い間隔で、高頻度に興奮し、その後心房細動を発症しています。心房細動アブレーションの際には、基本的にはこのような、高頻度興奮する場所を探して、焼灼治療しています。

赤矢印が心房細動起源の興奮です。興奮間隔は0.076秒と非常に短い間隔で高頻度興奮しています。その後心房細動が発症しています。参考文献 (1)より。

参考文献 (1) 桑原大志 心房細動に対するカテーテルアブレーションの適応と実際 Medicina 2013:50

慢性心房細動 持続期間が何年までなら治療可能か?

慢性心房細動とは心房細動の持続期間が1年以上のものです。患者さんから、よく受ける質問の中に「持続期間が何年までなら治るのか?」というのがあります。

当院では、心房細動の持続期間の長短に関わらず、患者さんと話し合い、アブレーションを実施した方が得だと判断した場合には、手術を行っていました。

最近、当院で実施した慢性心房細動アブレーションの心房細動の持続期間と成功率の関係をまとめました(図)。持続期間が10年未満なら、手術成功率は8割前後ですが、10年以上になると5割を切ってしまいます。成功率が5割を切るような治療手技はあまり、世間に受け入れられませんので、一応の目安として持続期間が10年未満の心房細動ならば、アブレーション治療により治る可能性ありということになります。

しかし、これも一応の目安です。持続が10年未満の人でも、左心房が著明に拡大している人は、成功率が低いと思われ、10年以上の人でも、左心房が小さく、心電図上の心房電位高が十分ある人は成功率が高くなります。お悩み中の方は、当院外来で実際に診察をお受けになることをお勧めします。
心房細動の持続期間が10年未満の人ならば成功率が8割前後となっています。

2013年12月15日日曜日

緒方洪庵

「花神」 司馬遼太郎原作の小説で、私が小学校6年の頃、大河ドラマとして放映されました。長州藩、村田蔵六(後の大村益次郎)の話で、医者として軍師として活躍する姿が描かれていました。

その大村益次郎やまた福沢諭吉の師は適塾の緒方洪庵先生です。彼は「医師というものは、とびきりの親切者以外は、なるべきしごとではない」「病人を見れば相手がたれであろと、可哀そうでたまらなくなるという性分の者以外は医師になるな」と説いています。

ドイツのフーフェランドの格言を緒方洪庵先生が訳した「扶氏医戒乃略」はいわば「医師の心得」が書かれており、私の拠り所しているところがいくつかあります。その一つに「医師は、毎日、夜は昼間に診た病態について考察し、詳細に記録することを日課とすべきである。これらをまとめて一つの本を作れば、自分のみならず、病人にとっても大変有益となる」というのがあります。
 
現代でも同じ。実際の治療中に目の前で起きていることは、教科書などには書かれていないことばかりです。その際に気づいた所見を記録し、それをまとめる、現代では論文にすることは、自分にも他の医師にも、ひいては患者さんにも有益なことだと思われます。不整脈のメカニズムにはまだまだ不明な点も多く、それをどのように明らかにして、治療していくかということを朝から晩まで考えぬいて、始めて良い治療ができるのだと思います。
司馬遼太郎先生の「花神」文庫本の表紙です。司馬遼太郎先生の本はほとんど読みましたが、特に「花神」は私のお気に入りです。私の故郷の愛媛県も出てきます。

高周波中隔穿刺針が正式認可されました。

以前このブログにも書いた高周波中隔穿刺針が厚生労働省に正式認可されました。

アブレーション時の安全性を高めるために不整脈学会から日本の医療業者に依頼し、カナダ製の高周波中隔穿刺針を輸入、代理販売、また正式認可されるように厚生労働省に申請をしたらしいようです。元の依頼が学会だったので、許認可がおりるのがスムーズだったのかもしれません。

この新しいデバイスを使用すると、心タンポナーデの合併も減るという論文(1)も報告され、使用頻度は一層増えていくと思います。

当院でも、私がアブレーションを実施する際は、高周波穿刺針を使用しています。中隔穿刺に要する時間が短縮し、安全性も増していると思います。
左上:心房中隔が伸展性に富むために、通常の金属針では孔を開けにくいケース。左下:心房中隔が肥厚しているために、通常の金属針では孔を開けにくいケース。このような症例で高周波中隔穿刺針は、安全に孔を開けることができます(右上、右下)。桑原大志 安全なアブレーションを行うためにできること Heart View 2013.17;87 より
参考文献 (1) Winkle RA. Heart Rhythm 2011;8:1411

2013年12月14日土曜日

高齢者のカテーテルアブレーション。カテーテルアブレーションに年齢制限はあるのか?

患者さんからよく受ける質問です。「カテーテルアブレーションは何歳まで実施可能ですか?」アメリカの施設から発表された論文によると、80歳以上の人と、80歳未満の人では、心房細動カテーテルアブレーションの成功率、合併症率は全く変わりませんでした。

当院でも以前、75歳以上の患者さんの105人を調べた所、手術成功率は93%、合併症は心タンポナーデが1例発症したのみでした(1)。その心タンポナーデの患者さんも、心嚢ドレナージを実施すると出血はすぐに停止し、予定より2日入院期間が伸びましたが、元気に退院されています。

自覚症状のある心房細動患者さんに、アブレーションの年齢制限はありません。アブレーションにより、自覚症状は消失もしくは軽減しますので、アブレーションを実施するメリットは明らかです。では、自覚症状の無い、あるいは乏しい高齢の心房細動患者さんはどうなのか。

カテーテルアブレーションを実施したことによる脳梗塞予防効果は数年で現れきます。つまり、アブレーションを実施していない心房細動患者さんに比べ、アブレーションを実施した心房細動患者さんの方が、脳梗塞発症率が低いという差が明らかとなってくるのが、アブレーション実施数年後という意味です。平成22年の厚生労働省の発表によると、平均余命は80歳の方で男性8.6年、女性11.6年、90歳の方で男性4.4年、女性5.8年でした。脳梗塞予防効果発現年数とこの平均余命を考慮すると、自覚症状の無いもしくは乏しい90歳の方でも、心房細動アブレーションによる脳梗塞予防効果の恩恵を被ることができる計算になります。しかし、実際には年齢だけでは、片付けられない他のリスクもあるので、お悩みのご高齢の方は是非当院にお越しいただき、診察をお受け下さい。
アメリカの施設から発表されたデータです。Group 1 (80歳以上)とGroup 2 (80歳未満)では、手術成功率に変わりありません。
参考文献 (1) Kuwahara T, et al. Japanese Journal of Electrocardiography 2011;31:3